不意に、あの寒い日のことを思い出した。
あの日は満月だった。
春の気配はまだ遠く。
はじめは曇っていたのに、だんだん晴れて、突然、月の全貌が露になった。
月が金色に光っているのを見て、わたしは外に飛び出した。
オリオンの三つ星が、きれいに見えていた。
不意に、わたしはあの人のことを思い出した。
ちょっとだけ、歩いてみた。
元気よさげな歩調で、歩いた。
そしたらなんだか寂しくなって、しくしくと泣きたくなった。
けれど、寒いから止めておいた。
ここに、この道に立っているわたしは、あの人から、遠かった。
あの人とわたしの遠さが、しみじみと身にせまってきた。
生きてきた年月による遠さでもなく、
因って立つ場所による遠さでもなく、
しかし絶対的にそこにある遠さ。
ため息の代わりに、そっと名前を呼んでみた。
けれど、無論、応えはない。
また、泣きたくなった。
顔を下に向けたその時、地面に流れ星が見えた。
「今、本を読みつつ、月をみてみました。」
あの人からの、メールだった。
あまりの寒さに緊張が重なって、手が上手く動かなかった。
また、泣きたくなった。
メールを返信する代わりに、今度は少しだけ、泣いてみた。
そんなことがあった。
こんなに遠いのに…
けれど何故だろう、気持ちが通じるように感じることがあるのは。
彼とメールをしていると、わたしはまるで、織姫になったみたいに感じる。
天の川という絶対的な境があるというのに。
メールが、鵲になって、わたしの気持ちを届けてくれる気がする。
あぁ、もう!
運命なんじゃないか、なんて…
期待ばかりが膨らんでいく。
いつだって、タイミングが良すぎるから。
偶然が、どんどん積み重なっていくから。
ねぇ、ねぇ!
信じても、いいですか?
今日の約束…
きっと、忘れないでくださいね。